Chemin du Gastronome
Les gagnants du Prix Taittinger Japon
コンクール・テタンジェの覇者たち

【第5回・前半】 堀内 亮 シェフ

Monsieur Ryo Horiuchi

料理人の総合力が問われる最高峰の料理コンクール「<ル・テタンジェ賞>国際シグネチャーキュイジーヌコンクール」。

日本の優勝者にインタビューをする第5回目は、2020年「第54回<ル・テタンジェ賞>国際シグネチャーキュイジーヌコンクール日本大会」で優勝し、2度の延期を経て、2022年5月のパリ本選でも見事優勝された堀内亮シェフです。現在は福井にあるレストラン「ル・ジャルダン」料理長として活躍されています。

コロナ禍初期の2020年秋に日本大会が開催されましたが、2021年1月予定のパリ本選が2022年1月に、その延期の日程がさらに2022年5月へ延期になってしまった第54回大会。いつも淡々している堀内シェフでしたが、内心ではモチベーションを維持するのは大変だったようです。パリ本選を中心にお話ししてくださいました。


パリ本選で優勝してからまもなく1年ですね。優勝された時の率直な気持ちをお聞かせください。

「嬉しかったのですが、あんまり『勝った!』という気がしませんでした。」

それは、あまり手ごたえがなかったということですか?

「手ごたえ・・・そうですね。料理としてはしっかり作れたことは作れたし、作りたいものができたのですが、会場であるコルドン・ブルーがあまりにも狭くて、コミが並ぶといっぱいいっぱいで・・とてもやりづらくて、調理場の使い方が自分としてはきれいに使えなかったのです。」

調理場の使い方も審査の対象になりますからね。

「そうなのです。でも、その後調理場審査をされた関谷シェフにお伺いしたところ、『調理場の使い方で減点はなかったし、きれいに使えてたよ』と言われて、あぁそうなんだと思いました。もしかしたら僕より汚い人がいたのかもしれませんね(笑)」

コンクールではいつもと違う調理場を使わなければならない・・・やはり適応力が求められますね。

「そうですね。今回は本当に狭くて、とてもやりづらかったです。優勝した時はまだ福井のレストランも開店準備中で、コンクールでの結果の反響というのを働きながら感じることができなかったので、その後も『実感』はなかったです。ですが、お店を開店してからは『テタンジェコンクール優勝者のレストランということで来てみたよ』という方がいらっしゃったり『優勝者』ということでフェアなどのお仕事が増えたりして、『優勝したんだな』と実感することができました。」

メディアへの出演もされてますね。

「福井テレビなどの取材を受けました。なかなか貴重な体験でしたよ!ほかにも『La Liste』の世界版で若手期待賞をいただくことができましたし、様々な雑誌に掲載していただいているのは、優勝した影響だと思います。」

※La List・・・2015年に登場した世界各国の600以上のガイドやレーティングの情報を集積し、独自のアルゴリズムで人気店を導き出した未来型レストランガイド。

『テタンジェコンクールで優勝』という大きな看板を掲げて新しくオープンしたレストランは順調ですか?

「はい、おかげさまでたくさんのお客様にいらしていただいます。ただ・・・一緒に働いている調理スタッフが20代前半ばかりで、スーシェフがいません。ですので、1月のテタンジェコンクールの審査員で渡英する時は、お店を閉めなければなりませんでした。人数も5人ほどですので、満席(30名)になるとかなり忙しいです。調理スタッフ、特にスーシェフになれるような経験者を大募集しています!」

ホテルもレストランもスタッフが足りないという話はいろいろなところで聞きますね・・・。福井で働きたいという方がいらっしゃるといいですね。

「東京であればスタッフももう少し簡単に見つかったかなと思うのですが・・・。福井はとても良いところなのでぜひ!」

さて、今ではすっかり優勝したことを実感されていらっしゃるようですが、本選で印象に残ってることはありますか?

「オペラ・ガルニエでの表彰式とその後のディナーが本当に素晴らしかったです!非日常すぎてまるで夢の中にいるようでした(笑)」

授賞式
授賞式後のディナー会場

テタンジェコンクールを受けるきっかけは関谷シェフとの対談の際にお伺いしましたが、その時はまだ1回目の延期中で、その後また延期になってしまいましたね。

「2回目の延期はしんどかったです。1回目の延期(2021年1月から2022年1月への延期)の際は『しょうがないか』と思えたのでですが・・・2022年1月11日に開催されるはずの大会の延期が決まったのが2021年12月末でした。かなりギリギリの決定で、あと1週間もしないうちにフランスへ出発するという時期だったのです。」

ちょうど士気を高めていた時期だったのではないですか?

「そうなのです。なので、『はぁ・・・』と力がかなり抜けてしまいました。(同じく延期になってしまっていた)オリンピックの選手は本当にすごいなと思いましたよ。モチベーションの維持は本当に大変です。しかも2月にはロシアとウクライナの戦争が始まり・・・」

2022年1月から5月に延期になりましたが、2月に戦争が始まり・・・5月に開催できるのか不安になりますよね。

「またどうせ2022年5月も延期になるんだろうなと思っていました。戦争が始まった頃、フランスへの飛行機は飛んでいないって聞いていましたし。『他の選手も状況は同じなんだ』と思い聞かせるしかなかったです。」

どのあたりで士気やモチベーションは戻ってきましたか?

「4月あたりですかね。ちょうど戦争が始まった頃に前の職場(パレスホテル東京 フランス料理『エステール』)を退職して、東京から福井への引っ越しもあり、3月は練習できるような調理場がなかったので、4月からコンクールの練習を始めようかなとなんとなく思っていました。」

2022年4月くらいから練習を再開されたのですね。

「関谷シェフの『いまさらバタバタしてもしょうがないから』『日々の積み重ねが大事』という言葉を思い出して・・・牛肉のテーマの料理は、確認作業のつもりで練習をしました。あとは、コンクールの前日に出されるテーマが何かを想像しながら、そちらの練習も4月から始めました。」

実際に出されたテーマは「春野菜の前菜」でした。かなりざっくりとしたテーマでしたね。

「そうですね(笑)。なので、審査員長のエマニュエル・ルノーシェフに『これってどういうことですか?冷たくても温かくてもいいの??』と質問しましたよ。そしたら『なんでもいいよ』と。」

コンクール前日に提示されたテーマと野菜リスト

それを聞いてどう思いましたか?

「『え!?なんでもいいんだ』と思いました(笑)」

そのテーマを聞いた時、どんなものを作ろうかすぐに思いつきましたか?

「野菜のリストを渡されたので、それをみながらパッとは思いついたのですが、本当にこれでいいのかなと少し不安ではありました。」

テーマを見て考える堀内シェフ

結局、どんなものを作られたのですか?

「(写真をみながら)下から
ポロネギとほうれん草のエチュベ、
グリンピースとそら豆、
ムースロン(きのこ)、
レモンゼスト、
赤タマネギのピクルス、
グリンピースの泡、
グリンピースときのこのソース でした。」

※エチュベ・・・水分をほとんど入れずに蒸し焼きにして、素材のおいしさを味わう料理方法

堀内シェフがコンクールで作成した春野菜の前菜

前日にテーマが発表されたあとに、すぐに考えたんですよね。

「考えてた時に、その場にいた関谷シェフと小林圭シェフが『どう?大丈夫?何を作ろうとしてるの?』と聞いてくださって・・・こんなものを作ろうと伝えたところ、『あんまり深く考えないほうがいいよ。だいたい前日にでたテーマで、誰も食べたことないような奇抜なものを作れる人なんていないんだから、今までやってきた火加減や適切な塩加減の料理で全然問題ないから。』とアドバイスしてくださったんです。『温かくてちゃんとアセゾネできてるというのはほとんどない。それさえちゃんとしていれば見た目なんてそこまで気にする必要ないよ。結局は味なんだから。』と。圭シェフは、レストランがミシュラン3つ星を取られた後から、いろんなコンクールの審査員をされることが増えたようで、そのように感じてたようです。」

※アセゾネ・・・調味すること。主に塩、コショウで味をつけること。

そのようなアドバイスをいただけると安心しますね。

「あのお二人がそういうなら、そうなんだろうなと思いますよね。他にも、冷たい料理だったら、あらかじめお皿に盛っておいてバーンと出すだけだな・・・どうしようかなと考えていたら、二人に『絶対にそれはやめろ』と言われました。『冷たい料理より温かい料理のほうが美味しいし、(料理の工程上の)安全策として冷たい料理を出すのも1つの戦略だけど、多少見た目が悪くても温かい料理のほうがいいよ』と。結局、出場者8人中温かい料理を出したのは僕ともう一人だけでした。」

左から圭シェフ、エリック・ブリファールシェフ、堀内シェフ、関谷シェフ

コンクールですと安全にうまくやろうという気持ちが大きく出てしまう場合がありますよね。温かい料理だとサービスするギリギリに盛り付けなければならず、時間内に作ることに焦ってしまうかもしれません。

「左隣で調理した3位になったオランダの選手は、おそらく常温の料理だったと思うのですが、かなり早い段階で盛り付けをしていて・・・それをみて僕は『あれ??もう盛り付けるの?いまの時間は??』とかなり焦りましたよ。あとから聞いた話によると、審査員のなかでも『なんであんな時間から盛り付けてるのか?』と話題になったそうです。時間内に終わらせようと安全策を興じる(早く盛り付けてしまう)と、減点にはならないけど美味しくなくなってしまいますよね。やはり出来立てが一番美味しいです。」

そのように前菜を作りつつ、牛肉の料理を作られたのですね。

「牛肉は・・・自分の中ではちょっと火を入れすぎたかなと思ったのですけど、あれは1回焼いてしまうとどうにもならないので(笑)。予定よりオーブンの温度が2度ほど上がってしまったのですが、まぁ評判はよかったんじゃないでしょうか。みんな僕の牛肉料理の切れ端を食べに来てましたから。他の選手はガルニチュールに手をかけていて牛肉は焼いただけのようにあまり手をかけてなかったようです。僕が一番のテーマである牛肉に手をかけていたと思います。」

※ガルニチュール・・・付け合わせのこと。

大会を通してテーマとなった牛肉の料理

そういうところがポイントが高かったのかもしれませんね。

「そうかもしれません。見た目は他の選手のほうがきれいかなと思うようなのもありましたが、結局牛肉は焼いてるだけのような感じでしたので。最近流行っているチュイルのようなガルニチュールがあるじゃないですか。みんなああいうのを作ってましたね。」

調理が終わって、審査員のもとへ料理が運ばれた時はどう思いましたか?

「それはもう涙が出そうでした!長かった、やっと終わったと思いました。延期もあり、フランスにきてからもハプニングがあったので、開放感がすごかったです。終わったばかりの瞬間は『順位なんてもうどうでもいいや』と思いましたよ(笑)。」

そして、発表式で・・・優勝が発表されました。先に8位~4位が発表され、3人残されて、3位、2位、1位と発表されます。2位が発表された時点で優勝者は優勝を確信することができます。

「審査が終わった後、全員の料理が並べられていて、それを見ながら『この人には負けたかな』とか『この人には勝てたかな』とか考えていたんです。なので、8位~4位で自分が呼ばれなかった時点で、僕の中では残りの2人(オランダとスウェーデン)には勝てたなと思っていました(笑)。とはいえ、優勝と言われても最初は実感なかったですけどね。」

優勝し、インタビューを受ける堀内シェフ

ところで、フランスでのハプニングとは?

「実は、お皿でトラブルがありまして・・・ちゃんと手配したはずなのにフランスで借りる予定のお皿のサイズが違っていたり、使用予定のサイズのものは枚数が足りなかったりして・・・結局は貸してくださる知り合いのシェフがいてなんとかなったのですが。」

フランス語でコミュニケーションが取れるからなんとか手配できたのですね。

「フランス語ができなければかなり精神的に参っていたと思います。関谷シェフともお話ししたのですが、フランスで働いていた経験があるのとないのとでは、精神的な安定感というのが違うかもしれません。借りている調理場もだいたい普通に営業している状況だったりしますし、コミュニケーションがとれるのは大きなアドバンテージですね。」

そして、早めにフランスへ行ったからこそ解決できたハプニングでしたね。

「コンクール前にフランスで練習することは大事だと思います。機材も食材も日本とは違うので。日本にあるペコロスのようなタマネギもないんですよ。僕の思うような大きさのタマネギがなかったんですよね。オニオンヌーボーに変えたりしました。マルシェで探しましたよ。ほかにも湿度や天候も日本とは違うから仕上がりも変わってきますし。」

パリのマルシェにて

他にも何かありましたか?

「コンクールの2~3日前に同伴してた妻が発熱しました。39度くらいまで上がってしまって・・・コロナではなかったのですが、ちょっと予定が狂ってしまいました。いろいろ手伝ってもらっていたので疲れがでたのかもしれません。」

延期が続き、フランスでもハプニング、大変でしたね。

「それを言ったら、僕の料理人人生はハプニング続きかもしれません(笑)。」

左から3位Jan Smink氏、優勝堀内氏、2位Louis Cespedes氏
テタンジェ社ヴィタリー社長、奥様と共に

後半のインタビューは、堀内シェフの料理人になったきっかけや、ハプニング続きだという半生のお話をお届けします。(後半はこちら

◆堀内亮シェフ

京都府生まれ
2008年3月京都調理師専門学校上級調理科(現西洋料理上級科)卒業
2008年4月レストラン「パッション」
2008年6月レストラン「ロオジエ」
2011年11月マンダリンオリエンタルパリ レストラン「Sur Mesure Par Thierry Marx」
2012年9月マンダリンオリエンタル東京 レストラン「シグネチャー」
2014年3月マンダリンオリエンタルパリ レストラン「Sur Mesure Par Thierry Marx」
2016年3月レストラン「Regis et Jacques Marcon」
2019年10月パレスホテル東京 フランス料理「ESTERRE」 アシスタントシェフ
2020年10月第54回<ル・テタンジェ賞>国際キュイジーヌコンクール日本大会優勝
2022年5月第54回<ル・テタンジェ賞>国際キュイジーヌコンクール・アンテルナショナル優勝

現在、福井県にあるレストラン「ル・ジャルダン」料理長

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